「アカウントを分けてる場合じゃない」 ジュエリーブランドnichinichiさんが政治的発信を続ける理由

1.3万人のフォロワーを持つジュエリーブランドのアカウントながら、日々積極的にTwitterで政治や日本社会に関する発信を続けるnichinichiさん。発信を始めたきっかけや、アクセサリー作りを始めた原点についてお話を伺いました。

ーーアカウントをいつ、どのようなきっかけで始めたか教えてください。

2010年からです。当時お世話になっていたお店のオーナーさんに「情報発信に便利だからやってみたら」とすすめて頂いて始めました。

最初からブランドとしての発信を目的としていたのでアカウントはお店の名義で開設しました。

ーー開設当初は、どのような方針で始めましたか。

最初は納品状況をお伝えしたりとか、展示情報をお知らせしたりですね。よくあるアクセサリーやファッションブランドの公式アカウントと同じ感じでした。

ーー最近では、政治的なメッセージを頻繁に発信しているイメージがあります。途中で方針が変わるきっかけは?

日本のテレビのニュースって政策に対する深堀りや検討が無く、ただ「情報として」流すだけのものが多いと思うんですけど、私も以前はそういったものしか見ていなかったので、自国の政治に対する危機感や主権者としての社会的責任はそんなに感じてなかったんです。それが2012年に1年間ドイツに住んだことがきっかけで、政治に対する意識がガラッと変わりました。

政治や社会問題について個々人が自分の考えを持っていて、なおかつそれを日常の話題に出すのも割と当たり前……そういう環境で暮らしたことで自分にも社会に対する責任があるのだと気付かされました。

また、ドイツではマイノリティであるアジア人として暮らす中で、ドイツ社会の人権意識の高さに救われたことも大きいです。マジョリティとしての自分の振る舞いを省みるきっかけになりました。

それ以降、政治について自分で調べたり、Twitterで政治的な発信をしている人たちをフォローするようにもなりました。それでも、最初の頃はいいねは押せてもリツイートはできなかったです。

芸能人やアーティストがポロっと政権批判的なことを言っただけで「ガッカリしました」「ファン辞めます」と騒ぎになるのを定期的に見ていたので、そうなるのは嫌だな、面倒だなと思って。

「自分の中でしっかり考えてれば発信しなくてもいいや」と黙っていました。「投票に行きましょう」「投票してきました」くらいのことしか政治的な発言はしていませんでしたね。

決定的に意識が変わったのは2018年の参議院選ですね。自民党が圧勝して、しかも投票率もすごく低くて。自分が感じていた危機感と、投票率や選挙結果の乖離にすごく衝撃を受けて、ただ投票を呼びかけているだけではだめなんだと痛感しました。

今の政治にどんな問題があるかよく分かっておらず「テレビでよく顔を見るから」「この人が勝ちそうだから」という理由で投票先を決める人や、「どうせ変わらないから、いま自分は特に困ってないから、投票行かなくていいや」という人が多いんじゃないか、こんな状態で民主主義が正しく機能しているといえるのだろうか、と考えてゾッとしたんです。

それで、政治社会問題が広く周知されるためにも、そういった話題について積極的に意思表示していこうと決めたんです。

あとは、特にネトウヨ的な発信をしているわけでもない「普通の人」が「まあでも韓国だしね~」とか「中国はちょっとね~」みたいなうっすらとしたヘイトを日常ツイートの中で言っているのを目にすることが確実に増えてきたなと感じたことですかね。

私のフォロワーさんでもそういうことを言っている人がいたんですよ。それを見たときに、「ヘイトを許容しない」という姿勢をはっきりと示さないと、と思いました。もっと早くそうするべきだったと後悔しています。

ーーそういったアクションに関して、ネガティブな反応を受け取ることはありますか。

やり始めて直ぐの頃はフォロワーがガッと減りましたし、引用ツイートで「作品だけが見たいのに」みたいなことを言われたりもしました。でも最近はもうそんなにたくさんは来ないですね。

それでもバズったりすると「ジュエリーブランドに政治を持ち込むな」とか「専門家でもないのに黙ってろ」とか、どこかで見たような言葉が飛んできます(笑)。

ーー「政治を持ち込むな」と言われることに対して、どのようにお考えですか。

持ち込むとか持ち込まないとかじゃないですよね。みんなに当たり前に関係あることじゃないですか。だから「持ち込む」という単語が理解できないですね。

私は作家である前に人間です。個人事業主として社会の中で暮らしています。政治社会問題は自分の生活や仕事に直結しますし、有権者として社会的責任も負っています。

もっといえば、企業だって株式会社という「法人」として社会に参画しているわけです。法人だって社会の構成員で、法人税がどうなるか、雇用制度がどうなるか、労働基準法がどうなるのかってめちゃくちゃ関係ありますよね。

法人と付き合う側としても、例えば過剰労働を推進する政党を支持するような企業かどうか、就活生はもちろん消費者だって知りたいと思います。

だから政治を「持ち込む」と言われることには全く納得がいきません。当たり前に最初から含まれていて不可分なものを「持ち込むな」と言われても……私は自分に関係があるものについて当たり前に自分の意見を表明しているだけなんです。

ーー「作品だけが見たいのに」という意見に対しては?

正直、一番許せない言葉かもしれません。それって「作品だけを気持ちよく消費させてくれ」ということですよね。「物はかわいいのに作っている人がちょっと」と言われたりもしますけど、それなら他のブランドで買って欲しい。こういった発信をしていないブランドの方が圧倒的に多いんですから。

「作品に政治的なイロがつくのを案じている」みたいなことを言われたりもするんですけど、私の作品をどう扱うか決める権利は私にあります。私の作品がほんの僅かでも耳目を集めるのであれば、それを使って社会的な責任を果たすべきだ、というのが私の考え方です。

この仕事は私の人生そのものなんです。

ーーnichinichiさんの人間性が詰まった製品ということですもんね。

そうです。だからアクセサリーのツイートでバズったりして、新しくフォロワーさんが増えたときに定期的にしているツイートがあるんですよ。

「こちらは政治社会問題ごちゃ混ぜのアカウントです。政治に対して前のめりにブッ込んでいきます。こういう人が作ってるからこういう作品なんですよ」という感じで。それが嫌なら作品は諦めて下さい、という意味で書いてます。

ーーそもそも、nichinichiさんにとってアクセサリーを作るとはどういうことですか。

もともとおかしなことにはおかしいというタイプの人間ではあったと思うんですけど、大学生くらいの頃からは「社会が決めた規範を押し付けられたくない」という気持ちがすごく強くなって……。だから変な格好ばっかりしてた(笑)。

その変な格好に合うアクセサリーが田舎には売ってなかったんですよ。それで自作を始めたんです。

だから、「お前らの世界には靡かないぞ」という意思表明がアクセサリー作りの出発点だったというか。価値観や立ち位置を装いで表明することが私にとってはすごく自然で、やりやすい方法だったんですよね。

ーー作品と作り手のスタンスを意図的に切り分けようとすることは、いわゆるクリエイターだったりアーティストへの尊重の欠如と結びついてくると思います。

それは本当にそうだと思います。ある作品を作るためには必ず技術や経験の蓄積がある。30分で描かれた絵は決してその30分だけで出来上がっているわけではなくて、その人の年齢+30分なんです。

何かを表現する人って、自分の経験や価値観、見たことや聞いたこと、それら全てを総動員して作り上げてるんですよね。それなのに、作品は観たいけど作者の主義主張は見たくない、というのはあまりにも乱暴というか。

そういう考えを持つこと自体は自由だけど、作品を作っている本人にぶつけてはいけないと思います。ものすごく作者の気力を削ぐ行為ですから……差別発言や倫理的に問題のある発言をしているのなら話は別ですけど。作者は作品を作る機械ではないんです。同じ社会の中で生きている生身の人間が作っているんだということをどうか忘れないで欲しい。

機械での大量生産だって、それを生産している企業がありますよね。その企業が法人としての理念を基に生産しているわけで、結局どういう生産形態であっても、なにか物がひとつ出来上がってくるまでには、人間の様々な意思が介在しているのは間違いがないはず。それを忘れているのではないか?と思いますね。

ーー逆にポジティブな反応を受け取ることはありますか。

もちろんあります! そういった反応のおかげでやっていけてるんだと思います。

例えばネット上での署名運動とか、最近はよくあるじゃないですか。今の状況下で自分の意見を表明する手段として有効だと思うので自分が署名したものはリツイートするんですけど、私のリツイートがきっかけでそういうものに署名するようになりました、と言って頂くことがあります。あとは政治社会的なことを言ってもいいんだな、って思うようになったとか。

たとえ批判的な意見しか届かなくても私は発信をやめる気はありませんが、やっぱり自分の発信が誰かのプラスになったというのはとても嬉しいことですし、励まされます。

ーーTwitterを見ていると、nichinichiさんのそういったスタンスに惹かれて購入している方々も数多く見受けられます。広告などから垣間見える企業の態度に失望している方々にとってはnichinichiさんのアクセサリーをつけることも、nichinichiさんの発するメッセージを支持するという意味で、ひとつの政治的な立場を表明することにもつながると思うのですが、そういった理由からくる消費行動の高まりはnichinichiさんご自身は感じていらっしゃいますか?

私の政治的なツイートや積極的に意思表明する姿勢に惹かれて買ったと言って下さるお客様は前よりも多いですけど、それは相対的に、そういうのを嫌う方々が買わなくなって減ったからそう感じるのかもしれないし……何とも言えないですね(笑)。

ただ体感としてはコロナ禍以降、私のスタンスに共鳴して購入しました、という趣旨のお便りは増えたと感じています。

ーー新型コロナウイルスへの政府の対策を見て政治に興味を持った人は、確かに多いように感じますね。

やっぱりウイルスって圧倒的に忖度の利かない存在じゃないですか。全世界同時に同じウイルスに立ち向かうという局面だからこそ国ごとの対応の差が分かりやすい。だからこそ、その差に愕然とした人は多いんじゃないでしょうか。あとは家から出なくなって時間が出来て政治についての情報を得やすくなったりだとか、そういった背景があるのかもしれないですよね。

でもやっぱりまだまだ政治のことについて喋る人とそれを忌避する人との間には溝があるように感じています。政治アカウントをフォローしている人たちも基本的には政治に興味がある人たちばかりですよね。

その垣根を壊して、色んな人の視野に当たり前に政治の話題が飛び込んで来るようにしないといけないな、そのためにはアカウントを分けている場合ではないな、と思っています。

自分たちの生活や権利がどのように侵害されているのかを「政治」という話題に特に興味のない人にもリーチさせることが必要で、ファッションやアートなどの文化芸術こそ、その役割を担うべきだと思います。

そしてみんなが少しずつ、趣味のアカウントや友人とつながったりする日常のアカウントで時事問題について話したり、リツイートしたり、Twitterデモにハッシュタグで参加したり……普段の何気ない生活のことをツイートする合間に少しでもそういったアクションを取ってくれたら、「政治のことを話す人はヤバい人」みたいな空気が無くなっていくんじゃないかと。

その結果、より多くの人が政治について自分事として考えるようになれば民主主義もより健全に機能するでしょうし、個人が個人として生きやすい社会になっていくと思います。

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執筆=Sisterlee編集部・Kobin
画像=nichinichiさん提供

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