「大蛇」は「家父長制」なのか? 恋愛を歌わないaespaが限りなくクィアなワケ

Unsplashより

皆さんはaespaをご存じだろうか。少女時代やEXOを輩出したSMエンターテインメントのSMCU(SM Culture Universe)初のプロジェクトとして2020年11月に『Black Mamba』でデビューし、2021年10月には1stミニアルバム『Savage』をリリース。国内の各音源サイトで一位、音楽番組でも4回の一位を獲得し、飛ぶ鳥を落とす勢いの注目グループだ。

何より注目すべきはaespaの世界観だ。SM Entertainment JAPAN公式サイトによると、aespaは「“Avatar X Experience”を表現した「ae」と両面という意味の英単語「aspect」を結合して作った名前」であり、「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を経験する」という世界観をベースにしているという。

現実世界にいるaespaのメンバーは「仮想世界の『もう一人の自分』であるアバター『ae-aespa(アイ・エスパ)』とSYNK(※)を通じてお互いリンクする」らしい。

※SYNK……aespaのメンバーとアバターがつながった状態のこと。

SYNKはテクスト(文字伝達)→音声や映像通話の順で発展していき、より持続すれば、アバターたちが現実世界に来てメンバーたちと対面する、REKALLが可能になる。

彼女らが現実世界にくる方法は一つで、それはP.O.S(Port Of Soul)というシンクホールを通過することである。しかし、今現在そのSYNKがBlack Mambaという大蛇によって切断(=SYNK OUT)された状態であり、Black Mambaを探しにメンバーはKWANGYA(※2)に向かうのである。

※2……無規則、無定形、無限の領域

と、ここまでaespaのコンセプトについて一通りまとめてみたが、初めてこの世界観に触れた人はおそらく理解があまり追いつかないのではないかと思う。かくいう私もデビュー時から彼女らの曲やコンセプトに触れていたもののぼんやりとしか理解できておらず、今回この記事を書くために調べていく中で、やっと自分が理解できる範疇に落とし込めたといった感じである。

このように、何が何だか分からないがとにかく壮大で規格外の世界観を展開し、常に蛇と戦っており、その規模感と意味の不明さで正直笑ってしまうといった感じで、aespaのカムバの際は、私のTwitterのTLでは毎回大喜利状態なのである。

aespaが戦っているのは「家父長制」か

かくいう私も10月の『Savage』のカムバをもれなく楽しんでいたのだが、ふと、彼女らは結局何を我々に伝えようとしてくれているのか、という疑問が生まれた。そこでたどり着いたのが、もしかして彼女らは家父長制を打破しようとしてくれているのでは?という仮説だ。

というのも、aespaがデビュー時からずっと対峙している蛇は、精神分析などにおいて男性器のメタファーとされてきたが、これを家父長制のメタファーとして拡大解釈すると、蛇(=家父長制)を打倒することで、Black Mambaによって切断されていたaeとのリンクが可能になり、自分がなりたい自分(家父長制に抑圧されない自分)になれるというストーリーを読み取ることが可能なのではないかと思ったのである。

特に今年5月にリリースされた2ndシングル『Next Level』の歌詞では、“내 손을 놓지 말아 결속은 나의 무기”(私の手を離さないで 結束は私の武器)や“더 아픈 시련을 맞아도 난 잡은 손을 놓지 않을게”(大変な試練に遭っても私は掴んだ手を離さない)といったフレーズがあり、フェミニズム運動において重要視される連帯が強調されていたり、『Savage』のサビでは“I’m a savage, 널 부셔 깨 줄게oh I’m a savage, 널 짓밟아 줄게oh”(私は獰猛、あんたを砕いて壊してあげる oh 私は獰猛、あんたを踏みにじってあげる oh)といった様な攻撃的なフレーズが登場する。

特に後者は、森喜朗元東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の女性蔑視発言をきっかけに、家父長制下で女性に礼儀正しさや「わきまえ」が要求されることに対して抗議した「#わきまえない女」のムーブメントとも通じ合うマインドがあるのではないかと感じている。

フェミニズム性を保持しつつも、強烈すぎる世界観

2015年の江南駅殺人事件以降、韓国でフェミニズムリブートが起き、KPOP内でもMAMAMOOやITZYを筆頭とした女性グループから女性が自分らしく生きることを称揚する内容の曲が多くリリースされている(SMからの作品でいえば、直近ではRed Velvetの『Queendom』もそうした曲にあたる)。

フェミニズムの波が来ている中で、そのフェミニズム的なメッセージを非現実的で確固たるコンセプトの世界観に違和感なく織り交ぜており、フェミニズムに強く共感する人たちはもちろん、そうでない人たちも娯楽として十分に楽しめるようになっているところが、個人的に感心したポイントだ。

これはあくまで個人的な意見だが、フェミニズムは全面的に支持しているし、アイドル業界というかなり抑圧的な世界でフェミニズムと親和性のある曲が活動曲としてリリースされることもとても嬉しいことではあるが、ゲイのシス男性として、当事者ではないという自覚から、ファンダムとしてのその盛り上がりに乗れない自分がいた。

しかしaespaのような形で、フェミニズム性はしっかりと保持しつつも、それに限定されない強烈な世界観によってみんなと同じテンションで楽曲を享受できるというのが少し嬉しかった。

一度も恋愛について歌っていない

aespaがこれまでの活動曲『Black Mamba』、『Next Level』、『Savage』で一回も恋愛に関して歌っていない、という点も指摘したい。どうしてもロマンティックな要素を求められる存在であるアイドルが、デビューから一貫してaespaの世界観を表現し、常に蛇との闘いについて歌っているのはかなり異例である。というか異例どころではない。

しかし、こういった表現によってAロマンティックをはじめとした恋愛感情を持たないセクシャリティ属性を持つクィアなアイドルファンが疎外感を感じるということがなく、ファンダムの周縁ではなく中心に、自分たちの居場所があると感じられるのではないか。

aespaの世界観はクィアな人たちを包括しているというよりかは、今までアイドルのファンとして想定されていたシスでヘテロなファンが想定されていないという、マジョリティすら排除する形でマジョリティとマイノリティの垣根を取っ払っているのである。

マイノリティを包括する場合、どうしてもインクルージョンという形をとることが多いが、これだとどこかマジョリティの空間の間借りをしているような、あるいはマジョリティから“認められて初めて存在できる”という感覚を個人的には覚える。

しかし、aespaのファンダムではすべてがエクスクルージョンされることで、マジョリティ/マイノリティといった二項対立が無効化され一緒くたになっている印象を受けるので、クィアな人たちはより気兼ねなくファンダムの中にいられるのではないかと思う。

サウンド面にもあらわれるaespaの「クィア性」

aespaのクィア性は、サウンド面においてもあらわれている。たとえば、『Savage』収録曲の『YEPPI YEPPI』は、ブラック&ゲイクラブを中心として生まれたハウスがベースとなっており、クィアフレンドリーな曲となっている。また『Savage』の金属音のようなメタリックで無機質なサウンドからも分かるように、規範的な女性のイメージから脱却した、または無性的な印象だ。

また、歌唱法に関して言えば、メインボーカルのウィンターとニンニンの歌い方が今までのSM所属の女性アーティストではあまり聞かれない男性ボーカルで多用されるような力強い歌い方や拍の取り方をしていると指摘されている

このように、SMエンターテインメントが得意とする壮大で難解な世界観を表現しつつも、それだけにとどまらず、韓国社会におけるフェミニズムリブートやKPOPにおけるフェミニズムの隆盛、さらにはクィア性のあるメッセージをもしっかりと盛り込めているようにも感じられるaespaの活躍、そしてコンセプトの展開に今後も注目していきたい。

しかし、業界がこのフェミニズムムーブをビジネスチャンスとしてのみ捉え、それを利用しているように感じられる面もある(「NiziProjectでブームのJ.Y.Park『理想の上司』と称揚される裏で忘れ去られているもの」参照)。そういった側面があることを忘れずに、我々ファンも注視していく姿勢を持って応援していければと思う。

参考文献:

「[공지] [아이돌 세계관] SMCU aespa(에스파) (1) 세계관 간단 정리([お知らせ][アイドルの世界観]SMCU aespa(エスパ) (1) 世界観の簡単な整理」)Love My Blue

「aespa 에스파 (エスパ)‘ep1. Black Mamba’ — SM Culture Universe」YouTube

執筆=ぽむぞう

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