LGBTQ+を意識したテーマかと思いきや…2021年紅白に覚えた“がっかり感”とは

Unsplashより

去年の2020年の紅白レビューに続き、今回は2021年の紅白をレビューしたい。

2019年の氷川きよしの男女という性別二元制からの解放を思わせる演出や、MISIAのレインボーフラッグをバックに掲げたパフォーマンスによって、性別による組み分けへの疑問が高まった後の2020年紅白歌合戦。

引き続き氷川きよしが性別二元制を解体するようなパフォーマンスを行い、紅組司会の二階堂ふみが、ほとんどの場面でスカートドレスではなくパンツルックを着用し番組を進行したことなど、規範的なジェンダー観に対抗するような演出があった。

その一方で、相変わらず男女で組み分けをする制度や、家父長制に親和的なジェンダー観を理想としたような福山雅治の曲『家族になろうよ』が白組のトリで披露されるなど、“歪み”が顕著に表れもした。

それから1年。2021年の紅白歌合戦は、「Colorful~カラフル~」をテーマに、赤と白に限らない様々な色の衣装や舞台セットが番組を彩り、総合司会、紅組司会、白組司会と分かれていたものが、今回は司会3人で全てのアーティストを応援するという形になった。また、ゆずが『虹』を、BUMP OF CHICKENが『なないろ』お披露したりと、曲名という側面からも色を感じられるものとなっていた。

さらに、環境問題など、社会で私たちが直面しているイシューを取り上げるコーナー『カラフル特別企画』も要所要所で組み込まれ、一年の最後を楽しむとともに、未来に向けて我々がどのように振舞っていくべきかも考えるきっかけとなるような構成となっていた。

性的マイノリティを意識したテーマかと思いきや…

今回のテーマである「Colorful~カラフル~」はセクシュアルマイノリティの存在を意識したように思われる。

セクシャルマイノリティ称揚の場でレインボーカラーがよく見られるが、これは1970年代、ゲイ解放運動の際に使用されていたピンクトライアングルの代わりにアーティストのギルバート・ベイカーによって発案されたレインボーフラッグが起源となっており、1978年6月25日のサンフランシスコ・ゲイ・フリーダム・デイ・パレードで初めて使用され、その後全世界でセクシャルマイノリティを象徴するものとなった(参考:「LGBTの象徴「レインボーフラッグ」はなぜ6色? 作った人に聞いてみた」wotopi、2016年9月27日)。

昨年10月31日に行われた第49回衆議院議員総選挙で新型コロナ対策と並行して同性婚にまつわる議論が活発であったが、そうした世相を反映したのだろう。番組ロゴも刷新され、赤と白に二分されたものではなく、グラデーションで変化していくといたデザインに変わった。

しかし、これだけクィアを意識した前振りがあったにも関わらず、いざ始まると、ステージのフラワーアートや衣装、司会者の発言では文字通りの意味での「カラフル」は強調されるものの、前半ではLGBTQ+に関する言及や演出がほぼなし。直接的な言及は、番組の終盤でオリンピックに出演したゲイの選手の発言を紹介するにとどまった。セクシュアルマイノリティへの差別や、同性婚についてのNHKとしてのステートメントも皆無だった。

マツケンサンバのステージでかろうじてセクシュアリティをオープンにしているセクシャルマイノリティ当事者(真島茂樹)やゲイシーンで活躍していると推測されるようなダンサーが出演する演出もあったが、その後に「明日への勇気をくれる歌」と銘打ったコーナーで、過去にホモフォビックな発言をしたすぎやまこういちの功績が讃えられるという、頭を抱えてしまうような展開も起きた(参考:実際にすぎやまこういち氏は「チャンネル桜」でLGBTに関しどのような発言をしたのか:開会式『ドラクエ』曲?に懸念の声」Business Journal、2021年7月23日)。

「カラフル」は、SDGsで扱われること全般のこと?

YOASOBI with ミドリーズの「ツバメ」パフォーマンスや、前述のマツケンサンバのパフォーマンス、すぎやまこういちの功績を讃えられるコーナーが含まれていた『カラフル特別企画』だったが、放送前のセットリスト発表当初、私はてっきりクィアに特化したコーナーなのかと思っていた。

しかし、いざ番組が始まってみると、「ツバメ」パフォーマンスでは環境問題を扱っており、マツケンサンバでも、障害を持った人たちや様々な人種の人たちがフィーチャーされていた。セクシャルマイノリティについてというよりは、SDGsで扱われていること全般が取り上げられているようで、カラフル(=レインボーカラー)というものが、セクシャルマイノリティを象徴するものではなく、より広義での多様性を意味するような扱いをされていた。

確かに、多様性を表現するのに様々な色を使用することは、表現方法としてあり得るのかもしれないが、レインボーカラーには、それを掲げて自らの権利のために命を懸けた先人たちの歴史があり、クィアカルチャーの一部でもある。わずかながら剝奪感を感じる自分がいた。

「家族になろうよ」からのアップデートと、限界

2020年の紅白で『家族になろうよ』を披露した福山雅治は、今回『道標』という楽曲を披露した。『家族になろうよ』については、冒頭に添付した昨年の紅白レビュー記事を含め、異性愛規範に基づいた家族像やジェンダーロールを称揚するような歌詞であることに一定数の批判があった。

今回の『道標』はジェンダーやセクシュアリティにまつわる固定観念をなぞるような内容ではなかったため、その点ではかなり今回の紅白のテーマに沿ったものだったとは思う。しかし、その反面、この曲は故郷の祖母への感謝の気持ちを込めており、「イエ」的なつながりを強調するものではある。拒否される可能性を恐れ、家族にすらカムアウトできない当事者や、実際にセクシュアリティやジェンダーアイデンティティを理由に家族からの拒否に遭う当事者が現時点でまだ多くいるだろうことも忘れずにいたい(「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」134項、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、令和2年3月)。

川口春奈の毅然とした態度に好感

と、ここまでネガティブな点ばかり挙げてきたが、司会の川口春奈の毅然とした態度は、番組等で男女が進行などをする際、男性がメインで、女性が一歩引いた控えめな態度であることがまだまだ多い中で、個人的には好印象であった。

当初は、川口の衣装を去年の紅組司会の二階堂ふみのメッセージ性あふれる衣装等と比較してしまい、明白なメッセージがなく物足りなかったと思っていたのだが、そういった政治性を無意識的に女性にだけ要求している自分に今回気づくことができた。

日本社会で女性差別が横行していることもあり、差別に反対する声を上げる人が男性より女性が多いと感じていたからか、ついつい女性は何か行動を起こしてくれるだろうと思っている自分がいた。しかし、男性も当然ながらこの社会を生きる一員だ。2022年の紅白では男性司会者もそのような性差別反対、ジェンダー平等に関するメッセージを発信しているところを見られたらと思う。

我々は別に、虹色が好きなわけではない

我々クィアは別に虹色自体が好きなわけではない(もちろん好きな人もいるだろう)。表象で虹色が出てくるとき、そこに「セクシュアルマイノリティをエンパワメントしていく」という意図を見出すことができるから称揚するのである。

今回の紅白は、ほぼ確実にそれを主題にしていたはずなのに、直接的な言及を避けていたため余計期待外れであった。同性婚について直接言及してほしかったくらいである。そのようなことをすると、娯楽に政治や思想を持ち込むなといった意見も出てくると思うが、テーマや司会編成の変更をしている時点ですでに持ち込んでいるのである。そこまでしておいて、中途半端な表象ばかりで言及もないとなると、我々クィアは利用されたと感じるだろう。

このように、企業や団体などがレインボーカラーを掲げてクィアをサポートしているように思わせて、実際のところは特にそれ以上のことはしていない、又はむしろクィア差別に加担するような活動や投資をする「レインボーウォッシング」という言葉があるが、今回の紅白歌合戦にはそのようなニュアンスを感じ取った。2021年東京オリンピックの開会式でのレインボードレスを着たMISIAが国家独唱をしたのも、レインボーウォッシングの一例として挙げられるだろう。

と、結局終始批判ばかりになってしまったが、自分が今まで気が付かなかったことに自覚することができた機会にもなったので、皆さんにとって、少しでもこのような気付きの多い番組になっていってくれたらなと思う。2022年の紅白がどのような方向に向かうのか、今から楽しみである。

執筆=ぽむぞう

【参考資料】

「司会呼称とロゴ刷新で“区別”を撤廃…「多様性」尊重の紅白に広がる賞賛 」女性自身、2021年10月30日

https://news.yahoo.co.jp/articles/529f47a9067ca1e887d468de015597ddf46419d4 (福山雅治『道標』に関する記事です)

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