NiziProjectでブームのJ.Y.Park「理想の上司」と称揚される裏で忘れ去られているもの

今年上半期、ガールズグループオーディションプログラム「Nizi Project」が人気を博した。

韓国の大手芸能事務所JYPエンターテイメントと日本のソニーミュージックが連携し、日本から世界に通用するアイドルガールズグループを発信するために立ち上げられた企画である。

日本全国から参加者を募り、韓国のJYP本社での最終評価に至るまで「Nizi Project」に密着した同名の番組は、日本テレビ「スッキリ」にて特集されていたこともあり、広く知られることとなった。最終的に選出された9人によるグループNiziUはプレデビューとしてEPを発表し、MVの総再生回数は7000万回を超えるなど、世界的にも注目を集めている。

そんな中、日本で人気を博したのはオーディションに参加した少女たちだけではなく、審査員を務めたJYP総合プロデューサー、J.Y.Park氏である。

「理想の上司・指導者」とするネット記事が急増

日本でも活動する2PMやTWICEのプロデュースを手掛けたJ.Y.ParkはこれまでKPOPのファン以外にはあまり知られることはなかったが、10月にはJ.Y.Parkの日本初ベストアルバムが発売されることも決定しており、NiziProjectの幅広い層への影響力の高さが伺える。

J.Y.Parkが現在日本で認知され受け入れられる理由として、その表情や話し方に加え、番組内での言動、そこから伺える優しい人柄が挙げられる。番組内で彼が参加者たちにかける言葉の数々は柔らかく、かつ指導も適切で、芸能教育として秀でたものであると受け取られているのだ。

実際、放映後J.Y.Parkに関して書かれたインターネット記事は急増したが、その着眼点の多くは「理想の上司」「素晴らしい指導者」…といったところである。

だが、kpopのファンであり、NiziProjectの放映前からJ.Y.Parkの存在・パフォーマンスを知っている人間としては、NiziProjectを通じて彼が手放しで賞賛される空気に対してどこか違和感を抱いている。

J.Y.Parkとはどのようなアーティストなのか

J.Y.Parkは1994年に「날 떠나지 마(私から去っていかないで)」でデビュー。のちに「餅ゴリ」とあだ名を付けられるように、ゴリラと比喩されるいかついルックスと、当時としては珍しいセクシャルな雰囲気に高いダンススキルを兼ね備えたパフォーマンスで注目を浴びた。

その後も「그녀는 예뻤다(彼女は綺麗だった)」「HONEY」等でヒットを叩き出し、性に奔放で解放的な雰囲気を持つパフォーマンスを確立していく。2000年代に入ると自身の活動は抑えプロデュース業に注力するようになり、日本でも知られるWonderGirlsや2PM等の人気アイドルを次々と輩出する。

2007年に自身のアーティストとしての活動も再開し、以降はプロデュースと活動を並行させながら現在に至る。性的なパフォーマンスを基軸としながらも、自身のルックスやメディアでの発言に対する大衆の反応・評価をメタ的に取り込んだ「餅ゴリ像」もパフォーマンスに投影させる、独特のスタイルだと評しても遜色はないだろう。

J.Y.Parkの近年のパフォーマンスの視点

2015年に発表された「 Who’s your mama?」は近年では真っ先に彼の代表曲にあげられるほどにヒットを記録する。 TWICEデビュー直前にあたる時期であり、J.Y.Park44歳の年である。

この曲は女性にウエストとヒップのサイズを尋ねる応酬から始まり、女の子は痩せすぎても見た目だけでもだめ、と女性の身体への欲望を述べ、お眼鏡にかなった女性に対して「お母さんはどなた? どうやってこんな風に育ててくれたの」と賛辞の言葉を送る。

あまりにあからさまに女性の性的客体化が行われている。ステージ上では女性ダンサーとペアを組み、その身体に視線を向けたり女性の身体をなぞるような振り付けが展開される。

正直、私個人としてこのパフォーマンスを目の当たりにすることはとてつもなくしんどい。MVで女性の尻に幾度もフォーカスされたり、J.Y.Parkがトレーニング中の女性の周りをうろつきその身体を見回すカットが挿入されるのも、快いものではない。

だが大衆に認知される彼のキャラクターが、男性が女性の身体を評価するという構造をどこかギャグのように受け取らせているようだ。「餅ゴリがこんなこと言ってる」というような笑いを誘っている節はあるだろう。

この時から女性との直接的な絡みがあるパフォーマンスが前に出てくるようになり、その後も記憶に新しい2019年の「Fever」や、つい先日発表された元JYP所属アーティスト、ソンミとのコラボ曲である「When We Disco」などでは、ステージ上で女性とのセクシーなパフォーマンスが繰り広げられる。

J.Y.Park称揚に抱く違和感

個人的には見る度モヤモヤしてしまうが、アーティストとしてJ.Y.Parkがどこか自虐的な視点を持ち込み、世間での自身の受け取られ方までも取り込んでキャラクターを作り上げ、女性を性的客体化する歌詞を含む楽曲、パフォーマンスを行う、そうしたスタイルはもう確立しているし、糾弾すべきだとまでは言い難い。

だが事実として彼はJYPエンターテイメントでプロデュースを行う立場、つまりアイドルになろうと夢見る少年少女に対して「権力を有する男性」なのである。

NiziProject内でJ.Y.Parkはオーディションについて「実力に対する評価の場ではなく、表現力を見せる場」、また「ある特定の目的に合わせてそこに合う人を探すだけで、皆さんが特別かどうかとは全く関係ない」と述べる。

オーディションを競争やテストの場ではなく、文字通り出会いの場と捉えているように伺える。だが、表現はどうであれ J.Y.Park が少年少女たちを「評価する」「選定する」この構図は覆されようもないものである。そこには彼の権力が前提にあることを、忘れることはできない。

彼の言葉が年端もいかない少女の思考を左右する

Nizi Projectでは特に、参加者のように年端もいかない少女に対して彼がかけるわずかな言葉が、少女たちの思考を左右する。

実際に番組内で彼は、ある参加者に痩せるよう促した。ダンスが重く見えるため体重を落としたほうがいいと述べ、自身は管理のため1日1食しか摂らない日もある、自分がやらないことを強いたりはしない、とその場にいた参加者全員に伝えた。(参考: NiziProject 体重が重いと指摘されたリリア!2ヶ月後のダンスは??

その後そう指導を受けた彼女は体重を落とすことに取り組む意思をさらに強くする。 これは果たして健全なことなのだろうか? 芸能界だから然るべき指導、その中でも優しく適切な言い回しだ、と受け取った視聴者も少なくないようである。

だが私はその指導に対して、素直に頷けない。成人男性と少女の身体の差はさることながら、全てに「芸能界だから」という前提がついており、その前提自体、特に女性アイドルにおける過度な痩せ信仰やルッキズムを打破しようとすることもない、凝り固まったものだからである。

ITZYメンバーたちがYouTubeチャンネルで吐露した心境

芸能界という構造の中で女性アイドルの立場や権利は、結局のところ何も変わっていない。例えばJYP所属でありJ.Y.Parkもデビューからプロデュースに関わるアイドルITZYは、これまで何度も女性へのエンパワメントを、自己肯定の視点で歌ってきた。

「私は周りとは違う」「あなたの考えに私を合わせる気はない」「誰がなんと言っても私は私」、こうしたメッセージの盛り込まれた楽曲に、私自身も励まされてきた。しかし先日 ITZY公式YouTubeチャンネルにアップされた動画 において、メンバーのリュジンはこのような心情を吐露する。

“一生懸命準備したパフォーマンスに対する称賛の言葉として、「ガールズグループの中では本当に難しい」, 「ガールズグループとしてはとてもかっこいい」というのがある。これは褒め言葉のように聞こえなかった”
“アイドルが痩せないといけないというよりは…少し痩せた方がダンスラインも綺麗だし、衣装も多様に着られるし、だから痩せなきゃと決心するんです”

『ガールズグループとしては…』という常套句をつけられ、痩せることへの圧力も自分で噛み砕かなくてはならない状況は、希望の星に見えたITZYにさえ変わらず降りかかっている。その歪さを誰も解消しない現状で果たして「素晴らしい指導者」は存在し得るだろうか?

彼が指導者であるならセクシャルなパフォーマンスはやめるべき、あるいはその逆を実践するべきだと言いたいのではなく(個人的にはそう思いもするがそれは適切な主張ではない)、セクシャルなスタイルを貫くアーティストという立場の彼と、歪な芸能界の構造に乗ったままプロデューサーという権力を有する立場の彼との間には乖離があり、それを取りこぼすわけにはいかないということである。

女性を性的客体化する視点の曲を作り、女性の立場や女性への圧力の変容も大して見られない芸能界の中で少年少女に対して権力を持つ年長者男性が、「特別なあなた」とのたまいながら少女たちを評価していく……こんなにグロテスクな構図があるだろうか?

パフォーマンスに対する指導はよく検討された素晴らしいものかもしれない。優しそうな人柄は嘘ではないかもしれない。けれどもJ.Y.Parkが形成してきた彼の立場は、その点のみで手放しに称揚されるほど、単純なものではないはずだ。私たちファン、消費者は、本当はもっと、悩み、モヤモヤし続けなくてはならないのではないだろうか。

Originally published at https://note.com on September 2, 2020.

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