「恋愛物語じゃないところに救われた」ジャンプ女性ファンに聞いた“どハマり”の始まり【ジャンプ愛読者対談】
2020年、『アクタージュ』原作者逮捕に対する編集部の対応や、過去の対談での「少年をターゲット」と言い切る発言が物議を醸した「週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)」。
前出の対談では、女性ファンがここ最近増えてきた、との発言があったが、「ジャンプ」が大勢の女性ファンに支えられてきたことは言うまでもない。長年「ジャンプ」に親しんできた女性ファンに、今の「ジャンプ」に対する気持ちを聞いた。(前後編の前編)
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――本日は「ジャンプ」愛読経験のある皆さんに集まっていただきました。よろしくお願いいたします。皆さんの「ジャンプ」との今の関係を教えてください。
kobin(以下、kb) 本誌は全く読んでいなくて、単行本で気になる作品を買って読んでます。『僕のヒーローアカデミア』と『呪術廻戦』を読んでいて、少し前までは『鬼滅の刃(以下、鬼滅)』『ハイキュー!!』も読んでいました。『チェンソーマン』もここ数日読んでいてハマりそうです。
kyoa(以下、ka) 私はオタクとしての始まりが「ジャンプ」でしたが、最近は『あんさんぶるスターズ!!』ばっかりで漫画読みって感じでもないです。でもオタクとしての目覚めの部分にはしっかり根付いています。
sm 『NARUTO -ナルト-(以下、ナルト)』や『家庭教師ヒットマンREBORN!』、『銀魂』が連載されていた時期から読んでいて一時期読むのをやめたんですが、2015年くらいからまた読み出しました。本誌を最初から最後まで読むのではなく、作品をつまんで読んでます。
とら子 (以下、tr)私はジャンプ本誌派で、ここ十何年かずっと購読しています。本誌は全体的に流し読みして、好きな漫画もあればちょっと詳しく読むかなって感じです。今連載されている中で好きなのは『チェンソーマン』(現在は連載終了)、あとはギャグ漫画が好きなので『AGRAVITY BOYS』(現在は連載終了)、『僕とロボコ』ですね。
――皆さんがジャンプにハマった最初のきっかけってなんでしょう。
kb 私は完全に絵にハマったんですよね。中学の友達に『D.Gray-man』(以下、Dグレ)を借りたんですが、それまで「りぼん」しか読んだことがなかったので、恋愛漫画にはあまりないバトルシーンの迫力や敵キャラクターの恐ろしくも魅力的なデザイン、構図の美しさや引きで見たときのコントランストのつけ方といった表現に衝撃を受けました。
あとは、恋愛漫画に元々興味がなかったので、少年漫画にハマっていったところもあると思います。
tr 私もkobinさんと同じで、最初は少女漫画を読んでました。「なかよし」の『東京ミュウミュウ』『ぴちぴちピッチ』といった女の子が戦う漫画が好きだったのもあって、少年漫画がしっくりきたっていうのがあります。
あとは『ボボボーボ・ボーボボ』を初めて読んだ時、めちゃくちゃぶっ飛んでて「こんなものがこの世にあるんだ」って驚きました。小学生にすごい刺さるギャグだったというか。
ka うろ覚えなんですが、私も友達の影響で読み出した記憶があります。漫画やアニメを見る人がいない家庭だったので、それまでほとんど漫画に触れていなかったんですけど、少年漫画に触れた時になぜかバーン!と。
sm 私は親や兄が漫画が好きだったので、家に漫画がたくさんあって。中学にあがると、クラスメイトの会話の中で「ジャンプ」が大きなメディアだったこともあって、学校帰りにコンビニで読んだりするようになりました。
――幼少期にジャンプを読んで、印象に残っている経験などはありますか。
sm 私が本誌をちゃんと読んでいた時期って、セクシー系の漫画が多く載っていた時期だったんですよね。『いちご100%』とか『To LOVEる — とらぶる — (以下、To LOVEる)』とか。そういう作品には子供ながらにショックを受けたのを覚えています。
学校でも話題になりましたけど、男の子たちが『いちご100%』や『To LOVEる』の話をしているときはなかなか会話の輪に入れなかった。
kb 私は『バクマン。』の表現がショックで。たとえば最初の方で「勉強ができるだけの女は馬鹿だけど、愛される女は賢い」といったセリフを主人公のうちの一人が言うんですけど、私は割と勉強が好きなほうだったので、「え、私って馬鹿なの?」みたいな。
あとは、中盤あたりで男性漫画家が一緒に漫画を描いていた女性シナリオライターさんにすごく執拗に言い寄って、最終的に逆ギレして大暴れするんですよ。
批判的に描かれてはいるのですが、それでも彼女がいない苦しさにスポットが当てられて、彼に同情出来るような展開ではありましたし、相手の女性の態度が悪いのかなと感じさせるような描写もあったりして、当時は怒るというよりただただ読んでいて辛かったのを覚えています。今思うと性暴力やストーカー被害を矮小化していますよね。
tr お二人のお話、どちらもすごく共感します。当時の私は「この表現は自分向きじゃないな」って流してたり、男の子の友達ともそういう話題は避けてたりしたので、そこまで「あれっ」って思うことはなかったんですけど。
でも、後になって「あのときのあの違和感って自分の好みの問題だけじゃなかったのかな」って。なので、どっちかというと、後から気付いたタイプですね。
ka 私も割ととら子さん寄りで、なんというか、迎合する部分があったっていうか。「このキャラ、セクシーでいいよね」みたいなのをネットで見ると自分もそれを繰り返すというか、再生産していて。
でも、振り返ると自分がそれを本当に好きだったのか、それとも周りに流されて真似していただけなのかよくわからない。ただ、とら子さんの『BLEACH』のコラムを読んで「たしかに素直にかっこいい部分もあったよな」と思ったりもしたんですけど。
――あれだけ夢中になったということは、優れた面もあったということですもんね。逆に、幼少期にジャンプに助けられた経験がある方は?
kb 私がジャンプに一番救われたのは恋愛がメインじゃないってところですね。例えば『Dグレ』のキャラクターそれぞれのストーリーだったり、一つの敵と戦うっていう、恋愛以外のデカい目的があるっていうのが、私が救われた部分でした。
tr 私も一緒です。それでいうと、『魔人探偵脳噛ネウロ(以下、ネウロ)』って漫画があって、恋愛じゃないバディモノっていうところがすごく好きかもしれない。
もちろん、「ジャンプ」ってメインが恋愛じゃないことも多いんですけど、ヒロインが恋愛によってか弱くなったり、恋愛に悪い意味で振り回されちゃう描写が多い気がしていて。その点、『ネウロ』は主人公二人が男女なんですけど、恋愛関係にはならない。対等なバディなんですよ。
sm 私は『ナルト』のサクラちゃんってキャラクターにすごく勇気をもらったんですけど、彼女はあんなに強いのに『ナルト』の中では医療忍者って立場なんですよね。今思えば、女性キャラクターだからサポート役としての立場を与えられてしまったのかな、と。
あと、『ナルト』は最終回でカップルがいっぱい誕生して終わる、というような終わり方になっていたのが少しショックでした。『鬼滅』も最後、この人とこの人がくっついたってことが示されていて、このスタイルは2020年代でも「ジャンプ」で続くのかな、と。
tr いわゆる「結婚エンド」というか、『銀魂』では“最終回発情期(ファイナルファンタジー)”って呼ばれてたやつですよね。私もすごく引っかかっていて。結局、女の子が誰かのものになって終わる感がすごく強いなって思ってしまうんですよ。
もちろん女の子たち自らがそういう道を選んだ、という描かれ方ではあるんですけど、女の子の苗字は残らないし、“家”を残すためにあのかっこいいヒロインたちが……というわだかまりがどうしても残ってしまう。
ka 戦闘員だったり、そういった役割もやめて家庭に入るみたいな描写がありますもんね。今の話を聞いていて、私はBLのオタクであることを利用して、そういったモヤモヤをスルーしてたなって思います。
男の子同士のカップリングだけ見て、女キャラが何してようが知らない、と思って読んでたけど、結局のところ嫌なところを全部見ないことにしてたなって。
――すごくざっくりとした質問なんですけど、BLが好きな方のBLが好きな気持ちって、作品内の女性の待遇をちょっと直視できない、みたいなところもあるんですか。
ka そうですね。ないとは絶対言えないと思いますし、それを塗り替えるパワーがBLにあったんだと思います。
女性の描かれ方によっては、ヒーローの格好良さすら毀損されたような気になることもあって。『ワールドトリガー』の迅悠一が女性のお尻を触るんですよ。それ、いらんやんかっていう。
tr いらないんですよね、本当に。それで話が進展するわけでもないし、ギャグとして笑えるわけでもないし。
kb 性欲の個人差は全部無視して、男性はみんなスケベだよね、という「お約束」みたいなのがありますよね。「女湯覗くの楽しいよね」みたいなセクハラノリ、性暴力の観点でもよくない上に、「ふだんはカッコいいヒーローも結局こうなんだよ」って回収されるのがすごい嫌でした。
それでいうと、読み始めの『チェンソーマン』はそこがどう進むんだろう、というところがあります。主人公がずっと「おっぱい揉みたい」って言ってるんですけど。
tr そこは、ぜひ続きを読んでほしいです。ネタバレになってしまうんですが……(以下、ネタバレのため中略。その後、とら子さんが『チェンソーマン』についてのコラムを執筆してくださいました。コラムはこちらから)
kb (とら子さんの見解を聞いて)なるほど……。そう聞くと、たしかに挑戦的な作品だと思う一方で、こんなに女の裸がいっぱい出てくるのに男の裸は全然出てこないんだ、っていう違和感はまだあります。結局少年誌だから女性の裸ばっかり出してるんでしょって。まなざされる性としての女性表象が多いなあという印象は強いです。
ka まあ、売り上げにはつながるのかなという気はします。他の少年漫画雑誌だと、実写の水着の女性が表紙やグラビアに掲載されたりすると思うんですけど、「ジャンプ」はそれがないので漫画で入れてるんでしょうね。
それでいうと、「週刊ヤングジャンプ(以下、ヤングジャンプ)」になってしまうんですけど、『ゴールデンカムイ(以下、金カム)』の男性の描き方は衝撃的でした。
kb わかります。私も『金カム』好きなんですけど、見たいかどうかは別として、今まで女の裸が出てきた数を考えたらこのぐらい出てしかるべきでしょって思いました。
sm 『金カム』は「ヤングジャンプ」ではあるんですけど、それまでのジャンプ作品について回った“男性らしさ”がすごく消えている部分がありますね。その一環として男性の裸がたくさん、かつコミカルに描かれるんだと思います。
他にも、ゲイのキャラクターや、キャラクターの異性装に対して、作品内でそれを他のキャラクターたちがバカにする、という描写が一切ないんですね。そういう意味で、信頼できる作品ですよね。
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後編を読む:最終回でカップルが次々誕生 少年漫画の“定石”を長年のジャンプファンが疑うワケ
執筆=Sisterlee編集部 妹